ノーマルガチャとはいえ、回すのには現地通貨が必要……つまりは課金ガチャだ。
生活費とともにガチャ代も稼ぐ必要があったセイルは、冒険者ギルドで依頼をこなすことに。
手始めに受けたゴブリン退治の依頼で活躍したのは、その直前に召喚された「王国魔法兵【女】」だった。
彼女の放つ闇魔法に、セイルは思わず目を瞠る……。
「何を当然の事を言ってるんだ?」
その言葉は、あまりにも衝撃的。私を撫でるセイル王子の手は優しくて、笑うセイル王子の表情は、素直な称賛に満ちていた。
☆★☆
闇魔法ダーク。王国魔法兵であって、適性があれば訓練で誰でも使える程度の魔法を……セイル王子は、「素晴らしい魔法だ」と喜んでくれている。
そんな事、一生言って貰える事はないはずだったのに。
そして、何よりも。この人は……セイル王子であるはずの人は、私を見てくれている。
あの綺羅星のように輝く英雄達の中にあっては、私なんて居ないも同じ。
命令通りに動くだけの兵士の役割しか求められていなかったはずの私を、セイル王子は見てくれている。
その事があまりにも不思議で、たまらない。
何故、どうして。どう聞けばいいのか、私には分からない。
ねえ、セイル王子。何故、私を見てくれているの?
そんな期待、最初から抱いていなかったはずなのに。
私にとって貴方は違う世界に生きる存在で。
貴方にとって私は、何処にでもいる兵士の一人にしか過ぎないはずなのに。
なのに、そんな風に微笑まれたら……期待してしまう。
それともこれは全て、私の願望が見せる幻なんだろうか?
「……あの」
「ん? ああ、つい撫でてしまったが……嫌だったか?」
「え、いえ。そうではなく、王子は……」
「ああ、それだ。俺の事は此処では王子ではなくセイルと呼んでくれ」
「え、あ。はいです」
幻じゃない。セイル王子は、私を……イリーナを、見てくれている。
そして、私に自分を「セイル」と呼べと言っている。
……ああ、なんてこと。勘違いしてしまいそうだ。
流石にセイル王子の事を「セイル」だなんて呼び捨てに出来るはずもない。
兵士と騎士、どころの差じゃない。兵士と王子なのだ。
今までそういう関係だったはずなのに、一体この人はどうしたっていうんだろう?
「なんだ?」
そんな事を聞いてくるセイル王子……いや、セイル様に私は確かめるように問いかける。
「私を……見てくれてるのです、か」
「何を当然の事を言ってるんだ?」
「……いえ、なんでもないです」
当然、当然ときた。なんて人だろう。一体どんな心境の変化があれば、こんな事になるのだろう?
貴方は王子で、私は一兵卒。どう考えても「当然」ではないのに、当たり前のように「当然」だと言うのだ。
うん、分かっている。たぶん、この人は計算なんかしていない。
前々から計算したかのように女に思わせぶりな態度をとる人ではあったけど、こうして直に接してみると、いわゆるスケコマシ野郎のようないやらしさを全く感じない。
本当に、心の底から「そう」思って言っているのだ。
そして……それがどれだけ私を舞い上がらせるかも分かっていない。
ああ、まったく。まったく、もう。見てみろ、目の前のこの人を。
思わずにやけてしまっている私を見て、何が何だか分からないと言わんばかりに首を傾げている。
そこ等の有象無象の男共が同じ仕草をやったなら、即座に股間を蹴り上げてやるところだ。
どうしよう、本当にどうしよう。こうなってしまうと、距離感が分からない。
違う世界がどうのという話は全然分からないけれど、この場にアホ面晒してる剣兵の女以外に王国軍のメンバーがいないらしいというのは、よく分かった。
もし居るのであればセイル様の周りはすでに埋まっているはずで、私が近寄る余地なんてなかったはずだ。
そんな悩みを私が抱えている間にも、セイル様は近寄ってきた剣兵女の方を向いて褒め始める。
「よく気付いてくれた」
「えっ。け、けれど私は……」
「いや、お前があのウサギが敵だと気付いたから対処できたんだ。凄いな」
「い、いえ! なんとなく普通のウサギでは有り得ないような殺気を感じたもので」
そんな剣兵女の言葉を疑いでもしたのかセイル様は私の方へ振り向いて。特に否定する理由もなかったので私は頷く。
「そ、うか……」
何が「そう」なのかは知らないけど、私には分からない何かがあるのだろう。
それにしても、この剣兵女。私より先にセイル様と一緒に行動しているみたいだけど……どのくらいの時間差があったのだろう?
一日? 二日? それとも、もっと?
分からない。けれど、それがセイル様からの信頼の差になっていたとしたら……とてもズルい話だと思う。
「幸先がいいな……今ならガチャを」
「それは待ってください、セイル様」
黒い板のようなものを取り出すセイル様を、剣兵女は押し留める。
確かアレは仲間を喚ぶ力を持った道具だという話だった気がするけど、なんで止めるのだろう?
分からない。分からないけど、それが今の私とあの剣兵女の差。
でも、きっとすぐに逆転してやろう。こんな折角の機会を逃す程、私は寝ぼけてはいない……つもりだから。
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転生し英雄になれ、なんて使命のわりに貰えたスキルは【ノーマルガチャ】!? 初期値は低いがクセの強い仲間を何とか育成し、セイルは活路を開いていく。そんな彼らの活躍は、国々も無視できないものとなり……?
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