活動拠点アーバルの冒険者ギルドに凱旋したセイルたちは、更なる戦力を求めガチャを回す。
そこで出てきたのは初の★3キャラで固有名持ちとなる「暗殺者ウルザ」だった。
しかし彼女は、ゲームシナリオ上はセイル王子の首を狙う暗殺者という設定。
召喚直後からセイルを殺そうと襲い掛かるウルザに、セイルはそれでも声をかける……。
「俺の仲間になれ、ウルザ。君が俺には必要だ」
その言葉がどれ程嬉しいかなんて、この男には分からないのだろうと思う。
暗殺者。殺し屋。死喰らい。色々呼ばれ頼られこそすれど、その血塗れの手を握ろうとする奴なんて、いなかった。
失敗すれば残念程度の、いつでも切れる捨て駒。
成功しても、その力が自分に向けられやしないかと疎ましがられる厄介者。
それが暗殺者の当然の扱い方だし……ましてや、こうして近寄って抱き起こすなんて、もってのほか。
それが自分の命を狙った暗殺者ともなれば、尚更だ。
だというのに。この男は一体、何を考えているのだろう?
打算? あるだろう。私を仲間にしたいと、この男は本気で考えている。
しかし、その瞳を見て私は「違う」と思う。
そう、違う。この男は「暗殺者のウルザ」ではなく、私自身を欲しがっている。
本気かと問えば「ああ、本気だ」と、そんな答えが返ってくる始末だ。
それでいて、なんだろう。あんなに華麗に私を撃退したくせに、私にどことなく脅えているようにすら見える。
なんというアンバランス。それとも、あの表情も感情も読めなかった……以前会った時のこの男が異常すぎただけなのだろうか?
この男に……セイル王子を殺そうと狙ったのは二度目。撃退されたのも二度目。
もはや、私の暗殺者としての価値は地に落ちたも同然だ。
だというのに、それにつけ込むでもなく……本気で真正面から説得しようとしている。
それが本当におかしくて。私は、身体から力を抜く。
「……そう、ね。私じゃ貴方にはどうやったって勝てない。雇い主もこうなった以上、私を処分しにかかるでしょう。貴方に拾われる他、ないわね……」
一体どんな表情を見せるのかと。そう期待したその瞬間、護衛らしき王国兵の二人から反対の声があがる。
「セイル様、私は反対です! こんな女……危険です!」
「私も、そう思うです……」
当然の意見だ。何しろ、二度も自国の王子を狙ったのだ。
そんな相手が「仲間になる」なんて言ったところで「三度目があるんじゃないか」と考えるのは当然だ。
私だって、彼女たちの立場なら同じ意見を具申するだろう。
けれど、セイル王子はそんな彼女達を無言で見つめ黙らせてしまう。
睨んだわけではない。ただ「意見を変える気がない」と、その態度で強く示しただけ。
……そうそう、前に会った時のセイル王子はこういう感じの男だったな、と私は思い出す。
寡黙で、目で全てを語るような……そんな男だった。
「ふふ、その眼力っていうかカリスマっていうか……それも相変わらずなのね。何も言わずとも語ってしまう。それに頼りっきりだった貴方とは違う……か」
「さっきは寡黙だった方が良かったとか言ってなかったか?」
本気で言っていないのは、よく分かる。私の軽口に付き合い、軽く返してきたのだ。
それを軽薄と言えばそうなのかもしれないし……上に立つ人間として仰ぐには、その方がいいのかもしれないけれど。
「それはそれ、よ」
私は、今のセイル王子の方が好みだ。
ドライな関係も良いものだが、それは依頼人と遂行者の立場である時の話。
そうではない関係を築くというのであれば、このくらいが好みだ。
ほら、なんと返したものか……と、そう言いたげな困った顔でセイル王子が笑う。
そんな顔を見せられると、もう少しだけからかいたくなってしまう。
試しに抱きついてみればどうなるかとやってみると……釣れたのはセイルではなく、護衛の王国兵。
「あー! こ、この無礼者……!」
うーん……イマイチ分かりにくい反応だ。普通に兵士としての義務で怒っているようにも見えるし、そうでないようにも見える。
「何よ。王子は嫌がってないでしょ? 愛人のつもりか知らないけど、干渉しすぎは良くないわよ」
「あいじっ……」
顔を真っ赤にしてしまった兵士の様子を見るに……微妙なところだろうか。
セイル王子を男として認識してはいるけど、兵士としての義務感が勝っているとか、そんな感じだろうか?
もう一人の魔法兵らしき子の方は、無表情でよく分からない。
でも私の勘でいうと、あっちの方がたぶん面白い性格をしてると思う。
こっちの子は普通に素直な感じだ。まあ……「そういう関係」になっているのは居ないと分かっただけでも収穫だろうか?
「冗談よ」
ある程度の満足を得た私は、それ以上はやめておこうと自制する。必要な距離感は、これで理解できた。
「……ウルザ。アミルは真面目なんだから、あまりからかうな。それと俺の事はセイルでいい。何度も言うが、この世界には王国はないんだ」
「そういえば、さっきも言ってたわね……いいわ、我が主セイル。私が此処にいる事を含め、状況を説明して貰えるかしら?」
さてさて、どんな話が飛び出してくるやら。ともかく……新たな私の生活は、中々面白くなりそうではあった。
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