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『剣と魔法と学歴社会』2巻発売記念! 初回出荷分限定SS

神童の出会い(著/西浦真魚)

 出会いは強烈だった。
 合格発表の日。
 掲示板に張り出された実技試験結果の、自分の名前より上にその名はあった。もちろん悔しくない訳では無かったが、ライオはむしろ感謝した。子供の頃から神童と呼ばれ、ある種腫物のような扱いを受けてきた自分を超えたその男アレンの出現に。
 だが教室で初めてその男と言葉を交わしたライオは困惑した。『何のためにこの学園にきたのか』と問うた自分に、アレンは『自分が面白おかしく生きるためだけに来た』と、初対面である全クラスメイトの面前で言い放った。民を、弱き者を守るなどという高尚な趣味は無いとも。
 別に優等生的な回答が欲しかった訳ではない。誰だって多かれ少なかれ、そういった利己的な部分はあるだろう。
 だが責任ある貴族家出身の者が、大っぴらに口に出していい内容ではない。当たり障りのない言葉で無難にやり過ごすこともできたはずだ。だからこそ、その言葉には、強い覚悟が込められているような気がした。
 困惑しつつも、ライオはアレンの『価値観の相違』という言葉を受け入れ、評価をいったん保留した。何か理由があるのかもしれないと、あってほしいと、誰よりも待ち望んだ好敵手ライバルの出現に期待していたライオは、心の奥でそう願った。
 だがその期待はすぐに踏みにじられることとなる。初めのオリエンテーションで、ゴドルフェンがアレンの入試結果は不正の疑いがあると宣言したからだ。
 怒りよりも、悲しみが大きかった。やはり自分は、孤独を抱えて生きる運命――
 今朝掲示板の前で感じた、生まれて初めて感じる不思議な高揚感は霧散していた。
 何とか感情を鎮め、アレンが立ち上がる気配を感じると同時に自分も立ち、振り返った。なぜそうしたのかは分からない。
 振り返ってアレンの顔を見たライオは、またしても困惑する。その目には怒りと、何よりも理不尽に屈しないという強烈な覚悟が宿っているように見えた。
 ゴドルフェンがアレンの不正嫌疑は学科が対象であり、実技試験の結果は試験官満場一致のトップ評価で疑う余地がないと宣言すると、ライオの胸はドクリと高鳴った。
 落ち着け……。
 ライオは必死に自分へと言い聞かせた。たとえ実技がどれだけ優れていようとも、仮に不正をしたのであれば、それは越えてはならない一線を越えている。
 静かに自席につき、目を瞑る。再び心を鎮めようと努力したが、胸の鼓動はなかなか収まらなかった。

  ◆

 「ようライオ。どこ行くんだ?」

 クラスメイトのアルがライオに問いかける。

 「今朝、坂道部一軍条件の時間内で、アレンと同じ外周と坂道ダッシュ十本を走りきれた。今度は素振りの方法を聞いてくる。ただ走るだけのトレーニングにあれだけ深く考える奴が、どんな素振りをするのか興味があってな」

 「あぁ、確かアレンは自己鍛錬はランニングと素振りしかしていないって言ってたな。確かにアレンは放課後すぐに帰っちゃうし、プライベートが完全に謎だから興味あるな。アレンもAクラスへの所属が決まったんだから、忙しいなんて言ってないでさっさと貴族寮に引っ越して来ればいいのに……」
 「……妙な奴だな……。設備やサービスが整えられているこっちに来たら、引っ越しの手間暇なんてすぐに取り戻せると思うが……」

 隣で話を聞いていたダンが疑問を口にする。この貴族寮には家事代行サービスを始めとしたあらゆるサービスや一流の設備が整えられており、一般寮と同額の寮費で貴族寮に住めるAクラスの生徒が、一般寮に住む理由などどこにもない。

 その場にいたココ、ドルもダンの意見に同意して首を捻る。

 「……毎日図書館で遅くまで調べ物をしてて、引っ越しをする時間もないとか言ってたな。よし、今日は休みだし、アレンがさっさと引っ越せるように俺らが手伝ってやろうぜ!」

  ◆

 「アレン・ロヴェーヌかい?三〇三号室だけど、いつも通り素振りして寮の朝食を食べた後、庭でぶつぶつ言いながら何かしてたけど、その後何やらリュックを持ってうきうきと出て行ったよ」

 寮母のソーラがそうアルに告げると、アルは苦笑した。

 「あちゃ~出かけちゃったか。ほんとに忙しい奴だな。えーっと、ソーラさん。普段アレンはどんなトレーニングをしているのかご存じですか?例えば素振りの様子とか……」

 ソーラは目を細めてアレンの素振りを思い出した。

 「ぼうやの素振りかい?……ありゃ確かにちょっと変わってるね。体の使い方や魔力の込め方の無駄をとことんそぎ落としている。動きを洗練する事に特化していて、拘りを感じるね。もっと強さや速さに目を向けた方が、手っ取り早く強くなれるだろうに。若いくせに遠回りをする事をまるで恐れていない。どうやらほんとに引っ越す気もないみたいだし、妙なぼうやだよ」

 ソーラがあっけらかんとそう言うと、皆は顔を見合わせた。

 「あ、アレン、貴族寮に引っ越す気ないって言ってるんですか?な、何か理由でもあるんですかね?」

 ソーラは意外そうな顔をして『なんだ、聞いてなかったのかい』と言って顎に手をやって首を捻った。

 「理由は……はっきりとは分からないね。ただ、入学初日に入寮の手続きに来た時、私がこのボロ寮がいかにひどい環境かを説明した時から嬉しそうな顔をしてたよ。寮の規則はあれだけだって言ったら、その場で三年間世話になると宣言した」

 ソーラはそう言って、壁に掛けられた額を杖で指した。その額には太ぶととした字で『質実剛健』と書かれている。

 「かざりけがなく、真面目で、強くしっかりとした様子を意味する言葉だよ。全く、若いくせに引き算の好きなぼうやだよ」
 ライオはソーラの言葉を心の中で反芻したとき、なぜか教室で出会った時のアレンのセリフを思い出していた。
 『自分が面白いと思う事を、好きだと思う事を、やりたいときにやりたいだけやって、面白おかしく生きる。そのために必要だと思ったから、この学園にきた。それだけだ』

 その答えが、『質実剛健』か――
 自分は貴族寮以外の選択肢など考えもしなかった。むしろ、恵まれた実家を出て貴族寮で生活することを修業のように捉えていた。敬愛する祖母のように強くなりたい。その気持ちに嘘はない。にもかかわらず、与えられたものをただ漫然と受け取っていた。見方を変えると、真摯に自分の未来と向き合っていなかったという事だ。
 皆が沈鬱な顔をしているのを見て、ソーラは慰めるように言った。

 「そんな顔をする必要はないさ。あの歳で、自分がどうありたいかをとことん考え抜いているぼうやが『特別』なのさ」

 特別――
 それは小さなころから自分を蝕んできた、呪いの言葉。
 その筈だった。
 だが目の前の老婆は言った。アレンが特別で、お前たちは普通だと。
 経験したことがないほどの猛烈な感情が、ライオの心に湧き上がる。
 それは悔しさか、あるいは自分への怒りか。
 だがライオの口角は、自分でも気付かぬうちにはっきりと吊り上がっていた。


※本ページは『剣と魔法と学歴社会 2』初回出荷分の購入者限定です。
※第三者やSNS等での公開・配布は固くお断りいたします。
※本企画は予告なく終了する場合があります。


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